教育資金贈与信託のデメリットは?対象項目一覧や使い切れない場合にどうなるのかを解説

教育資金贈与信託のデメリットをイメージした画像

孫や子どもなどの将来を見据えて「教育資金贈与信託」を検討されている方も多いのではないでしょうか。

「教育資金贈与信託」は、祖父母が孫へ教育資金を援助する目的で使用されることが多く、贈与税の非課税措置の利用が可能な点で人気を集めていますが、一方でデメリットや注意点などもあります。

そこで本記事では、教育資金贈与信託のデメリットや対象項目、教育資金を使い切れない場合などの注意点について具体的にご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

この記事の監修者

都内某企業の人事部で給与・社会保険関係・採用・教育などの業務に携わる中で、税や社会保障など、広い範囲でマネーの知識は不可欠だと感じ、2010年にファイナンシャルプランナーの資格を取得。
国内生命保険会社での保険営業を経て、独立系FPとして、子供の金銭教育普及活動やファミリー層中心のライフプランセミナーなどで講師を務める2児の母。同じ子育て世代の方が気軽に相談できるFPをモットーに活動中。

目次

教育資金贈与信託とは

教育資金贈与信託とは「教育資金贈与の非課税措置」を利用する場合に、信託銀行を通して教育資金を贈与する方法です。

通常、1年間で贈与を受けた合計額が110万円を超えると「贈与税」が課されます。

しかし、「教育資金贈与の非課税措置」を利用することで、最大1,500万円まで(学校等以外の教育資金の場合は500万円まで)は非課税で教育資金の贈与が可能です。

また、贈与を受ける「受贈者」は、以下の3つの条件を満たす必要があります。

  • 贈与者の直系卑属(子どもや孫)であること
  • 年齢が30歳未満であること
  • 前年度の所得合計が1,000万円以下であること

なお、教育資金贈与信託で専用の口座を開設し、贈与者である祖父母などが教育資金を預け入れることで、贈与がおこなわれます。

参考記事:祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし|国税庁

教育資金贈与で認められる対象項目一覧

教育資金贈与信託からお金を払い出すには、信託銀行に「教育費」として認定される必要があります。

教育資金贈与制度で認められる対象項目は、文部科学省の定める「教育資金」に該当するものに限られ、大きく以下の2つに分けられます。

  • 学校等に対して直接支払われる金銭
  • 学校等以外の者に対して直接支払われる金銭

それぞれの対象項目について、詳しく解説していきます。

学校等に対して直接支払われる金銭

入学金や授業料・施設設備費など、「学校等に対して直接支払われる金銭」の場合は、贈与税の非課税額は1,500万円までです。

対象項目の具体例は、以下のとおりです。

  • 学校等に支払われる費用(保育料、入園料、入学金、授業料、試験の検定料など)
  • 学校等に関する費用(学用品費、修学旅行費、学校給食費など、学校等で教育に必要な費用と認められるもの) 

「学校等」とは、幼稚園、小・中学校、高等学校、大学(院)、専修学校、各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園または保育園などを指します。

参考記事:教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置に関するQ&A

学校等以外の者に対して直接支払われる金銭

一方で、「学校等以外の者に対して直接支払われる金銭」では、1,500万円のうち500万円までが贈与税の非課税枠になります。

500万円までの非課税枠の教育機関は、主に塾やスポーツ教室(サッカー・水泳など)、文科や芸術などに係る教室(ピアノ・茶道など)が該当します。

対象項目は、以下のとおりです。

  • 塾やスポーツ教室などの習い事の月謝
  • 習い事などの教養の向上のための活動に係る指導料
  • 習い事に必要な物品
  • 制服や裁縫セットなど学校が必要と認めたもの
  • 通学定期券や留学のための交通費など

ただし、孫や子どもが23歳を迎えた日の翌日以降は、これらの支払いは非課税の対象外になるため注意が必要です。

参考記事:教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置に関するQ&A

教育資金贈与信託のデメリットは?

教育資金贈与信託は、教育資金を専用口座に預け入れるだけで、銀行に管理してもらえる安心感があります。

しかし、信託銀行に預け入れるお金は「教育資金」のお金であるため、教育費以外の急な出費などでお金が必要な場合でも自由に払い出すことはできません。

そのほか、教育資金贈与信託には以下のようなデメリットがあります。

  • 手続きが面倒
  • 判定が難しい
  • 相続争いの火種になる可能性がある

デメリットを知ることで、教育資金贈与信託が教育資金の援助に適しているかの判断材料になりますので、ぜひ参考にしてください。

手続きが面倒

教育資金贈与信託を利用する最も大きなデメリットは、教育資金を払い出す手続きが面倒なことです。

祖父母などから贈与された教育資金は、信託銀行が管理しているため、お金を払い出すには信託銀行の認定が必要になります。

教育資金として認められるには、教育費の請求書や領収書などの提示が必須です。

また、信託銀行で教育資金を払い出す方法は、請求書を提出して「事前に払い出す方法」か、支払った領収書を提出して「後から払い出す方法」のいずれかになります。

なお、面倒な手続きを避けたいという方は、教育資金をその都度少額ずつ贈与し続ける「暦年課税」を検討しても良いかもしれません。

判定が難しい

教育資金贈与信託で教育資金を払い出すには、文部科学省の定める「教育資金」に該当する項目でなければいけません。

しかし、ルールが細かく設定されていることから、個人での判定が難しいケースがあります。

例えば、野球のグローブを指導者を通さずに、個人の判断により専門店で購入した場合は非課税枠の対象外になりますが、指導者が購入した場合は対象になります。

このように、信託銀行から教育資金を払い出す際には、教育資金贈与で認められる対象項目の確認が随時必要です。

相続争いの火種になる可能性がある

子どもが複数人いる方で、教育資金贈与信託を活用してそれぞれの孫に教育資金を一括贈与する際は注意が必要です。

子どもによって孫の人数が異なる場合、贈与金額にも差が出てしまい、将来の相続争いの火種になる可能性もあります。

そのため、それぞれの孫に一括贈与をおこなう場合は、家族の意見も取り入れながら「教育資金贈与信託」を活用するかどうか判断すると良いでしょう。

教育資金贈与信託のメリットは?

教育資金贈与信託のメリットをイメージした画像

教育資金贈与信託のメリットは、非課税制度を利用しながら孫などに教育資金を贈与できることです。

 通常1,500万円の贈与をすると多額の贈与税がかかりますが、非課税制度を利用することで、孫などが対象年齢に達するまでに使い切ることを条件に、贈与税がかかることはありません。

さらに、「暦年課税」との併用も可能ですので、教育資金以外の贈与をおこなった場合でも110万円の基礎控除が適用されます。

また、教育資金贈与信託は「生前贈与3年ルール」の対象外であることから、相続税対策の効果もあります。

孫の教育資金を負担することで子どもの経済的な負担も軽くなるため、教育資金贈与信託の利用は、贈与者・受贈者ともに大きなメリットがあります。

教育資金贈与を使い切れないとどうなる?

祖父母などから教育資金贈与の一括贈与を受けた場合に、すべて使い切れない場合はどうなるのでしょうか。

教育資金贈与の使いきれなかった残高には、贈与税がかかる場合、かからない場合がそれぞれあります。

どのようなケースが該当するのか、具体的に解説します。

贈与税がかかる場合

使いきれなかった残高に贈与税がかかるケースは、受贈者である孫や子どもが以下の条件を満たす場合です。

  • 学校等を卒業している
  • 教育資金の口座契約が終了している

孫などが30歳を迎えるまでに教育資金贈与を使い切れない場合は「教育資金以外の贈与」

があったとみなされ、贈与税がかかります。

贈与税額は【(贈与を受けた額-基礎控除110万円)×税率−控除額】の計算式で求めることができます。

式を見ると少し複雑に感じるかもしれませんが、贈与税額ごとの「税率」と「控除額」さえわかれば、簡単に算出することが可能です。

例として、30歳の時点で使いきれなかった教育資金が700万円あった場合の、贈与税を計算してみましょう。

まずは、贈与税の対象となる700万円の教育資金から「基礎控除額の110万円」を差し引き、贈与税の課税価格を出します。

【贈与税の課税価格】700万円−110万円=590万円

次に、下記の【贈与税の早見表】を使って、贈与税の課税価格に応じた「税率」を乗じて「控除額」を差し引きます。

【贈与税の早見表:特例財産用】

贈与税の対象となる金額税率控除額
200万円以下10%
200万円超~400万円以下15%10万円
400万円超~600万円以下20%30万円
600万円超~1,000万円以下30%90万円
1,000万円超~1,500万円以下40%190万円
1,500万円超~3,000万円以下45%265万円

【贈与税額】(贈与を受けた額−基礎控除110万円)×税率−控除額

590万円×20%−30万円=88万円

これらの計算から、教育資金700万円の場合の贈与税額は88万円になることがわかります。

参考記事:贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

贈与税がかからない場合

教育資金贈与の使いきれなかった残高があるケースでも、孫などが以下のいずれかに当てはまる場合は贈与税がかかりません。

  • 30歳の時点で学校等に在学している
  • 40歳になるまでに学校等を卒業し、かつ教育資金を使い切っている

上記のいずれかに該当している孫や子どもの場合、信託銀行が教育が「教育が継続している」と判断し、教育資金口座の契約延長の申請が可能になります。

なお、30歳以降は「学校を卒業した時点」の教育資金の残高で判断されるため、使い切れていれば贈与税はかからず、使い切れなかった場合は贈与税がかかります。

教育資金贈与は23歳以上でも使える?

教育資金贈与は、受増者である孫などの年齢が23歳以上でも使うことができます。

ただし、教育資金贈与制度の対象項目のうち、教育資金の範囲は以下の3つに制限されます。

  • 学校等に支払われる費用
  • 学校等に関連する費用
  • 学校等以外では「教育給付金」の支給対象となる教育訓練の受講費用のみ

「教育資金贈与の非課税措置」の非課税額である1,500万円までのうち、500万円までの非課税枠がある「学校等以外の者に対して直接支払われる金銭」の支払いについては、23歳以上は対象外です。

ただし、資格や技能を取得するための「教育給付金」の支給対象となる教育訓練の受講費用に限り、非課税枠の対象です。

なお、「学校等に対して直接支払われる金銭」については、23歳未満と条件などは変わりません。

参考記事:教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置に関するQ&A

教育資金贈与を解約したい場合は?

祖父母などから教育資金贈与を受けた場合でも、すべて使い切れないなどの理由から解約したいと思う方もいると思います。

しかし、教育資金贈与を信託銀行との合意で解約する方法はなく、信託銀行に預けている教育資金をすべて使い切った場合に限り、契約終了となります。

つまり、一度贈与したお金が祖父母などへ戻ることはないということです。

教育資金贈与信託で贈与を受けた分が余ることのないように、一度に大きすぎる金額を贈与するのではなく、家族などと相談しながら少しずつ追加することで調整しながら贈与していくことが大切です。

教育資金贈与信託で贈与者が死亡した場合は?

教育資金贈与信託の契約期間中に、贈与者である祖父母などが死亡した場合はどうなるのでしょうか。

教育資金口座の残高については、相続などによって取得された資産とみなされて、相続税の課税対象となります。

ただし、孫や子どもが以下のいずれかに該当する場合で、贈与者である祖父母の相続税の課税金額が5億円を超えない場合は、相続税の課税対象外です。

  • 孫や子どもの年齢が23歳未満である
  • 学校などに在学している
  • 教育訓練給付金の支給対象になる教育訓練を受講している

なお、上記の内容は、2021年(令和3年)4月1日以降におこなわれた贈与に該当します。

教育資金贈与信託の期限はあるのか

教育資金贈与信託は「教育資金贈与の非課税措置」を利用した信託商品ですので、教育資金贈与の期限は「教育資金贈与の非課税措置」の期間内といえます。

「教育資金贈与の非課税措置」は孫や子どもなどの若い世代に、教育資金を移管する目的で平成25年(2013年)に創立された制度であり、平成31年(2019年)3月31日までの期限付きの処置でした。

その後、令和5年の税制改正によりさらに3年間延長されたため、現在では、平成25年(2013年)4月1日から令和8年(2026年)3月31日までの間におこなわれた一括贈与が適用となりました。

参考記事:教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置|文部科学省

教育資金贈与の利用で注意したい3つのポイント

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一括贈与を受けた多額の教育資金を温存しすぎてしまうと、使い切れずに贈与税が課される注意点があります。

そのほか、教育資金贈与の利用で注意したい3つのポイントは以下のとおりです。

  • 教育費の支払いが贈与でないことも理解しておく
  • 非課税枠の上限いっぱいを急いで贈与しない
  • 教育資金贈与の教育費の範囲を把握しておく

それぞれ詳しく解説していきます。

教育費の支払いが贈与でないことも理解しておく

前提として、扶養義務がある祖父母や両親が、孫や子どもに対して教育費を支払うことは当然であるため、贈与ではありません。

しかし、「孫の成長をいつまで見守れるかわからない」などの理由から、祖父母が孫へ教育資金を事前に贈与した場合には、贈与税が課されてしまいます。

このようなことから、祖父母などが生前に教育資金を贈与しておけるように「教育資金贈与の非課税措置」という制度ができ、この制度を利用することで十分な教育資金の援助が可能です。

なお、「教育費の支払い」は授業料などの請求が発生した場合に、両親や祖父母が都度支払うものであるため、贈与とは異なります。

非課税枠の上限いっぱいを急いで贈与しない

先ほども少し触れましたが、教育資金贈与信託で贈与された教育資金は、教育費として使い切らなければ贈与税の対象になってしまいます。

教育資金贈与信託の途中解約や、残高を贈与者に戻すことなどはできないため、非課税枠の上限いっぱいを急いで贈与しないことが重要です。

非課税額に余裕がある場合、後から追加で贈与することができるので、家族と相談しながら段階的に贈与する方法を検討してみてください。

教育資金贈与の教育費の範囲を把握しておく

教育資金といっても「教育のためであれば何に使っても良い」という訳ではありません。

学校等に直接支払われるような入学金や授業料などは認められますが、個人の判断で購入するテキストなどは認められません。

一方で、教育資金贈与の対象科目には、パソコンの購入費用、自動車学校の費用なども含まれていることから、イメージしている「教育資金」よりも対象範囲が広く、使い道には困らないのではないでしょうか。

教育資金贈与信託を利用する場合は、教育資金贈与の教育費の範囲をしっかりと把握しておくことで、教育資金をしっかり活用できます。

教育資金贈与信託を利用した方がいい人とは

教育資金贈与信託を利用することでメリットが得られるのは、以下に当てはまる人です。

  • 相続対策も兼ねて孫にまとまった教育資金を贈与したい
  • 孫や子どもに多くの教育資金がかかる見込みがある(大学や大学院、医学部など)
  • 資産に余裕がある

教育資金贈与信託を利用して十分な教育資金が確保できていても、孫や子どもに進学の予定がない場合は、多額の教育資金は必要ありません。

一度贈与してしまうと、対象年齢までに使い切らなければいけないため、孫や子どもの負担になる可能性もあります。

教育資金贈与信託を利用するかどうかは、家族で話し合いながら慎重に決めることが大切です。

まとめ

今回は、教育資金贈与信託のデメリットや対象項目などについて解説しました。

教育資金贈与信託は、多額の教育資金を非課税で孫や子どもに贈与できる反面、手続きが面倒な点や対象年齢までに使い切らなければいけないというデメリットもあります。

しかし「教育資金贈与の非課税制度」の対象項目の範囲が広く、使い道が多くあることから、孫や子どもに満足のいく教育を受けさせることができます。

教育資金贈与信託を活用するか「暦年課税」で都度、教育費の支払いを援助するかは、家族間でよく話し合って検討してみてください。

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